節度を超えた騒音トラブルで、終の棲家にと思っていたマンションを手放さざるを得なくなった。齢70を超え、住宅ローンを完済したばかりなのに、再びお金を借りて住み替えるというのはどう考えてもリスキーだ。
60歳でローンを組み75歳で完済
小林幸太さん(仮名)は、妻の弘子さんと都内のマンションで暮らしている。約15年前の60歳の時、老後に備えて新築マンションに買い替えをした。費用は以前住んでいたマンションを売却した資金と退職金の一部を頭金にあてて、残りは住宅ローンを組んだ。
なんとか完済時年齢75歳の金融機関でローンを組み、ようやく半年前に完済することができたが、いま思えば60歳から15年間の固定金利、75歳で完済、という無謀なローンをよく組んだものだと、幸太さんは自分でも改めて思う。
最後の住宅ローンが引き落とされたあと、金融機関から抵当権抹消に必要な書類が送られてきた時は、ようやく終わったのだとホッとしたのを覚えている。
上階からの騒音に悩む
住宅ローンも完済しホッとしたのもつかの間、4ヵ月ほど前から上階のひどすぎる騒音に悩まされるようになった。強烈な足音、何か物を床に投げつけるような音、激しい叫び声……。しかも昼夜問わずである。ここまでの騒音はいままであったことがない。どうも上階の住民は、今年になってから引っ越してきた家族のようだ。
さすがにほぼ毎日となると耐えきれず、幸太さんが管理員に相談したところ、他の住戸からも同様の苦情や相談があるという。その際に心配した近隣住民が通報し、警察がきていたという話も聞いた。
その後、理事会でも話し合いがされ、騒音の注意文を全戸配布し、掲示してくれることになった。すると、しばらくはマシになった。
ところが、またしばらくすると、うるさくなった。再度管理員に相談にいくと、何時頃どんな音がするか、より詳しく教えて欲しいと聞かれ説明をした。
その後、より具体的な騒音内容が書かれた注意文の全戸配布と掲示を、再度してくれた。前回は掲示板のみだったが、今回は掲示板とエレベーター内にも掲示してくれた。功を奏したようでしばらくは静かになった。しかしまた最近、騒音が続いている。
500万円で防音室に工事するか…!?
神経質になり過ぎかもしれないが、騒音が気になり眠れないことがある。最近ではちょっとした物音すら気になり生活に支障をきたしている。本当は嫌だったが、勇気を出してメンタルクリニックに通院している。いまのところ軽度で心配はいらないようだが、このいたちごっこのような生活が続くとなると今後の生活が思いやられる。
防音室にするなど技術的に解決するという方法もあるという。防音室は、ピアノ演奏など外に音を漏らさないだけでなく、中にいる人にも効果があるそうだ。完全に防音室を設けるほかにも、壁や床の仕様を変えるという方法もあるという。たとえば、壁の中に吸音材と遮音シートを入れたり、床材を張り替えたり、床材の下にマット素材を敷いたりといった具合だ。その他にも換気口や窓ガラスを防音仕様に取り替えるといった方法もある。ただし、全室を防音室に工事する場合、仕様にもよるが500万円以上かかることもあるという。
ようやく終の棲家として住宅ローンを返済し終えたばかりだが、そんなにお金がかかるならいっそのこと買い替えや賃貸などへ引っ越ししたほうがいいのかと悩む幸太さんと弘子さんであった。
長期化しやすい騒音トラブル
騒音トラブルは、最新のマンション総合調査においても、居住者間のマナーをめぐるトラブルで「生活音38.0%」と最も多い。騒音トラブルは、一度発生すると解決の糸口が見いだせず長期化しやすい。最終的には、裁判や警察沙汰、引っ越しなども考えられる。
一方で音は人によって感じ方が違い、誰がなんのために出している音なのかわかるとそれほどうるさく感じないこともある。たとえば、日頃から面識のある赤ちゃんや子供が出している音、事前に何日~何日までリフォームをしますと挨拶があるなど理由がわかっているようなケースだ。子供の顔がわかったり、リフォームなど明確な理由と時期がわかれば同じ音でも、想定内と思えたり心情的に致し方ないと思えたりする。ちょっとした配慮やコミュニケーションが重要なのだ。
またマンションの場合、構造上、真上や隣からの音だと思っていたものが、じつは斜め上や、上の上の部屋が発生源ということもある。天井や壁、床などを経由して振動や衝撃が音として伝わってくるためだ。
それでは、マンションで耐え難い騒音が続いた場合、どのように対処されているのか見ていきたい。
一般的には、小林さんのように管理員に直接伝えたり、管理会社のフロント担当者に相談することが多い。なかにはマンションに目安箱などといった意見を入れる箱が設置されておりそこに入れる場合もある。話を聞いた管理員やフロント担当者が、理事長や理事会に伝え、まずは騒音への配慮を促す協力文や注意文を掲示、全戸に配布することが多い。ただし、トッパン・フォームズが2018年にした調査結果によると、マンションを利用している人のうち、集合タイプの郵便受けの場合、毎日確認する人は約8割に留まるという。つまり、チラシを配布しても数日程度見ない、そしてようやくポストを確認しても、じっくり見ない人や、見ても騒音トラブルは自分とは関係ないと自覚しない人もいる。
そこで次に行われるのが、騒音について具体的に発生している音や時間を明確に記した注意文を再度配布する。掲示文は通常よりサイズを大きくしたり、カラーマーカーなどで強調し、掲示板のほか、エレベーター内(ボタン脇)や管理事務室の窓口など目に付きやすいところに貼る。これによってはじめて、自覚し騒音がおさまることもある。残念ながら一般的には管理組合や管理会社としての対応はここまでが多い。
それでもおさまらない場合、騒音主との話し合いで解決することになる。裁判や警察沙汰などと比べると平和的な解決方法ではあるが、騒音発生源であろう相手に直接苦情を伝えるのは、今後の生活にリスクになる可能性がある。もし騒音主だと思っていた人が違っていた場合はどうするのか。また顔見知りであっても近隣との関係を考えると「うるさい」と直接は言えず、ストレスを溜めることになるのではないか。
できれば直接よりは手紙で困っていることを伝えたり、伝言を専門とする便利屋を活用したり、もし管理組合や管理会社が間に入ってくれるなら、電話などで苦情を伝えてもらったり、同席してもらって話し合いを行うのが穏便な方法である。騒音主が「自分が騒音を出していることに気付いていなかった」と素直に認めてもらえる場合、思いのほか簡単に解決することもある。
相手が聞く耳を持っていない場合は…?
一方、相手が聞く耳を持っていない場合、解決は極めて難しく長期化しやすい。管理組合や管理会社、二者間の話し合いでも解決しない場合、警察など外部の第三者に相談し、協力要請するという方法もある。あまりに度を越えた騒音が発生している場合、警察に相談することで注意してくれることがある。
もし警察の制止を聞かずに騒音を出し続けた場合は、軽犯罪法違反となる。また警察からの注意後に騒音が再開した場合は、自治体における迷惑防止条例違反に該当する場合もあり、迷惑行為を告発すれば警察からさらに強い対応を講じてもらえることもある。
しかし、ここまで話が広がると騒音マンションと認定するようなもので、マンションの資産価値に影響しかねない。売却時に不動産屋が作成する重要事項説明書に騒音の事実を記載することになり、売却価格が下がったり、そもそも騒音がするマンションを買いたがる人はいないので売れないケースも考えられる。
弁護士に相談し、訴訟(裁判)をするという方法もある。その場合、不法行為(民法第709条)を根拠とした民事事件で訴えることが多い。近年では差止請求や損害賠償請求についても認められる判例もある。
法的手段を取る際は、被害の実証、客観的な証拠が求められるため、うるさかった時の記録や騒音測定器などで実数を測り記録する必要がある。測定器は行政の無料貸出や、近年では無料アプリなどもある。裁判にかかわらず、記録や実数は取っておくと主張する際に役立つ。
ほかには小林さんの事例でも書いたように、防音工事で騒音を低減したり、シャットアウトするという方法もある。効果は大きいが、一部屋で100万円を超える費用がかかるとされ負担は大きい。
手っ取り早いのは、騒音源から離れるため引っ越しすることだが、これも費用面、環境の変化など悩ましい問題が多い。
騒音トラブルは、厳しい言い方をすれば、誰もが被害者や加害者になりかねない。騒音トラブルが一度もないマンションはかなりの少数派であろう。では戸建てならリスク回避できるかというと、騒音おばさん(奈良騒音傷害事件)のようなケースもある。早期発見、早期対処、日頃から近隣コミュニティがあることが、解決の糸口なのだ。
<参照元・引用元>
・現代ビジネス
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/94539?imp=0
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